前略、寒波くん。担当の乃森だ。
まずはこちらから。
==本日のりんご==========
・無袋ふじ
・シナノゴールド
・はるか
・王林
・スリムレッド
・ピンクレディー
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今年はまた随分と力が入っているじゃあないか。
突然顔を出した先月のことといい、昨日のことといい、
酷い癇癪を起したような力の入れようだ。
それであまりにムキになったもんだから、
今日はちょいとばかりお休みというわけかい。
それでもこの有様だ。朝から機械を動かしてやっと片付けたところだ。
最近は随分と朝仕事が堪えてね。できれば雪片付けなんぞやりたくはないのだが、
それでもお客というものが来る。来る以上は足元は綺麗にしておかねばなるまい。
だがお客が来ると言っても、君が現れた日にはからきしでね。
ご覧。あそこに停まっておるのはお客じゃあない。
君のいたずらに付き合わされて荷車の雪を捨てておるのだ。
お客が来ないのに、朝仕事はしなければいかん。
本当に君が来ると碌なことがない。
そうそう、お客と言って分かるであろうが、私は相も変わらず林檎売りをしておる。
最近は「はるか」という黄色いりんごがもてはやされてね。
綺麗な顔色をした甘い林檎なのだが、
よかったら君も一度食してみるといい。
それにしても昨日の君ったら一体何だい?暴風という者まで連れておったではないか。
君との付き合いも随分と長いが、私はね雪が「踊る」のを初めて目にしたよ。
踊り狂うとは真にあのことだ。
ヒラヒラ落ちるものとは比べ物にならんくらい品がない。
あれも暴風という奴の仕業であろう?
西の方ではそのせいで随分と被害を蒙ったそうだ。
それが旧知の友たちの振る舞いだと思うとね、
いたたまれなくなる。少しは私の立場も考えてみてはくれまいか。
いいかい。いつからの友人か知らんが、暴風という奴とは縁を切ったほうがよい。
見たまえ。あまりにも粋がって吹き付けてくるものだから、
私は慌てて外に並んでおった林檎を中に引っ込めた。
丁度箱の林檎の数も少なかった故、なんとか置く場所はあったが、もしここが一杯であったら、あの容赦ない風雪にさらしておくしかなかったのだ。
しかし、何故さらす羽目になったと思うかね?
君の連れてきた暴風というやつのせいだ。
ご覧。左の軒下にはビニルの幕があろう。
あれで雨風を避けているのだが、右手には幕がないであろう。
私も一応店を守らねばならんのでね、ビニルの幕はしっかりと引いておったのだが、
気がついてみれば、なんと全て千切れておるではないか。
これでは外の林檎を風から守れるわけがない。
それで中に引っ込めたというわけさ。
あの暴風という奴は私は好かんね。悪さが過ぎる。
お店の野菜なんぞはほとんど出てはこん。
これはキウイというやつだ。ここでも作れるとは思ってもみなかったであろう。
あとはこの程度だ。
そうだ。見たまえ。タラの芽も並んでおるのだ。春の前にタラの芽を作ってしまおうという賢い人もおってね、
春を待たずに出てくるのだ。
君の顔を見ると、春が待ち遠しくて仕方がないのだが、
春には筍も出るのは知っておろう。
それを塩で漬けておいたものも出てきた。
これはこれで旨いのだがね、私は春にお顔を出したもののほうが好いておる。
君には悪いが、春が待ち遠しい。
そろそろ君も帰るのであろう。
いいかい。あの暴風だけはもう連れてこないでくれたまえ。
私は君の相手だけで精一杯なのだ。
さて、君がいなくなるとなると、
私としては清々するが、まあ君との腐れ縁が切れるわけでもあるまい、
また来月あたりにひょっこり現れ、
その時は君の相手もしてやらなねばならんだろう。
土産に凍み餅なんかどうだい。
これでもつまみながらゆっくりするといい。
今回の君はいささか力が入りすぎなようだからね。
君への手紙を書き終えたなら、
私は少し店を見て回らねばならぬ。
君のいたずらで悪くなった所がないかも見なければならんのでね。
ではいずれまた会おう。